調査名 | 中国・浙江省における染色工場の高効率テンター普及プログラムCDM実現可能性調査 |
調査年度 | 2010(平成22)年度 |
調査団体 | 九州電力株式会社 |
調査協力機関 | 株式会社みずほコーポレート銀行、緑章(北京)新能源技術有限公司 |
調査対象国・地域 | 中国(浙江省) |
対象技術分野 | その他(省エネ) |
対象削減ガス | 二酸化炭素(CO2) |
CDM/JI | CDM |
プロジェクト実施期間/クレジット獲得期間 | 2012年1月1日~2039年12月31日(28年間)/2012年1月1日~2021年12月31日(10年間) |
報告書 | |
プロジェクトの概要 | 本プロジェクトは、中国浙江省における染色工場を対象として、既存の旧式テンターを高効率タイプのテンターに更新することで、熱媒加熱に用いる石炭消費量の節減、及び消費電力節減による石炭火力発電での石炭焚き減らしにより、温室効果ガス排出量を削減し、この高効率テンター導入の普及を、プログラムCDM(PoA)を通じて行うものである。本PoAの下で浙江省内の染色工場をCDMプログラム活動(CPA)として登録する計画である。 ホスト国である中国のプロジェクトカウンターパートである「緑章(北京)新能源技術有限公司」(民間ESCO事業者)を、PoAの調整管理組織と想定している。なお、緑章(北京)新能源技術有限公司とPoAバウンダリー内の染色工場との間には何ら資本関係やPoA化のインセンティブとなるような契約関係は存在せず、本PoAは調整管理組織の自主的行動である。 CPAのモデル企業としては「杭州銭江印染化工有限公司」を想定し、当面は2012年初の運用開始を想定する。その結果、毎年平均10,994t-CO2/年のCO2削減効果が期待される。さらに、浙江省全域への普及を目指す。 |
適用方法論 | AMS-II.C(version13)「特定のテクノロジーのための需要側エネルギー効率活動」 |
ベースラインの設定 | - 新設・改造及び更新
本PoA下の各CPAが実施されるバウンダリーである中国浙江省において染色業界に対する政策を考慮すれば、本PoAに関しては、活動を更新に限定することが妥当である。 - 設備の更新時期
各CPAは、当該サイトにおける1台以上のテンターの将来の更新計画が含まれており、その計画の妥当性を評価することが求められている。テンターが更新されるタイミングについては、各CPA-DDにおいて、最新の「設備の残存寿命決定ツール(Tool to determine the remaining lifetime of equipment)」を利用して適切な時期を決定する。 本ツールを適用する場合、プロジェクト参加者は、専門家の評価を得て、設備の残存使用年数を、個々に決めることが適切であると判断される。 - 複数台テンターの更新の組み合わせ
ベースラインシナリオは、「同一の更新時期にプロジェクトがない場合に導入されていたであろうテンターの導入及び運用」のテンター台数分の組み合わせとなる。 同ツールを利用し、各CPAサイトにおいて、複数のテンターを更新する計画を具体化する。テンターの残存寿命に関しては、テンター1台ずつの判断となる。 本CPAについては、上記の方法を適用し、以下に示す16台のテンターに関する更新時期の組み合わせが採用される。 また、本CPAのプロジェクト期間は、上記組み合わせにおける最終導入機の設備寿命(20年間)が終了するまでの28年間となる。 |
追加性の証明 | - 投資分析
本調査では、CPA候補とした杭州銭江印染化工有限公司における経済性分析を実施することで投資分析を行った。 本プロジェクトのIRRは、クレジットなしの場合では10.91%、クレジットありの場合では14.50%である。 収 益 性 | クレジット収益なし | クレジット収益あり | IRR | 10.91% | 14.50% |
これに対し、中国紡織業界のベンチマークは14%であり、クレジットなしの場合の10.91%及び感度分析でのIRRはいずれもベンチマークを超えないため、CDMなしでは本プロジェクトは収益率が低く、投資家にとって十分魅力的な事業とは見なされない。一方で、クレジットありの場合の14.50%は収益率が高く、魅力的な事業と考えることができる。 - 一般慣行分析
本PoA下のCPA事業と類似する活動を行う一般的慣行は存在せず、また本PoAの実施を促進するような義務的な法規制は存在しない。本CPAにおいては、エネルギー性能の面及び初期投資費用の面の2つから一般的慣行がないことを証明できる。
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GHG削減想定量 | 杭州銭江印染化工有限公司は、保有しているテンター16台をそれぞれ2012年に6台、2013年に5台、2017年に1台、2018年に2台、2020年に2台ずつ、日本独自開発の高効率タイプのテンターに更新する。 ベースライン及びプロジェクト排出量の計算において1台あたりテンターの排出量を計算する。以下に示すように排出削減量が計算される。
(A)ベースライン排出量の計算 削減されるエネルギーは化石燃料及び電気であり、それぞれ別々に計算の上、合算を行う。- 化石燃料 BEFy = EFBL,y * EFCO2,F,y = 896t-coal/y × 23.7TJ/Gg-coal × 25.8kg-C/GJ × 44/12 = 2,008tCO2/y
※ 工場使用の石炭の熱量及び瀝青炭の排出係数を想定 - 電気 BEEy = EEBL,y * EFCO2,F,y + Qref,BL * GWPref,BL = 479MWh/y × 0.7826tCO2/MWh + 0 = 375tCO2/y
※ 中国政府(2009)、華東グリッドのCM(Combined Margin) - 合計 BEy = BEFy + BEEy = 2,008+375 = 2,383tCO2/y
(B)プロジェクト排出量の計算 ベースライン排出量と同様に、化石燃料と電気との両者の寄与分を合算してプロジェクト排出量を計算する。- 化石燃料 PEFy = EFPJ,y * EFCO2 FUEL,y = 480t-coal/y × 23.7TJ/Gg-coal × 25.8kg-C/GJ × 44/12 = 1,076tCO2/y
- 電気 PEEy = EEPJ,y * EFCO2 ELEC,y = 445MWh/y × 0.7826tCO2/MWh = 348tCO2/y
- 合計 PEy = PEFy + PEEy = 1,076+348 = 1,424tCO2/y
(C)リーケージ AMS‐II.C.(version 13)においては、「もしエネルギー効率技術が他の活動から移転された機器である場合、リーケージを考慮しなければならない」と定められている。本CPAでは更新された機器は廃棄されるのでリーケージはゼロである。
(D)排出削減量の計算 排出削減量については、AMS‐II.C.(version 13)に沿って、以下のように計算される。ERy(BEy - PEy) - LEy= 2,383tCO2/y - 1,424tCO2/y - 0tCO2/y = 956tCO2/y
プロジェクトによる排出削減量は以下のとおりである。
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モニタリング | - PoAとしてのモニタリング計画
調整管理組織は、DOEが個々のCPAに関して検証する方法を取る。 各CPAでは、方法論AMS‐II.C.(version 13)「Demand-side energy efficiency activities for specific technologies」のモニタリング方法論に沿ってモニタリングを実施し、データの妥当性についてクロスチェックを行った上で、調整管理組織に定期的なデータ報告を行う。 調整管理組織では、DOEが各CPAに関して検証(verification)を実施できるよう、PoAに含まれる全CPAについて統合したモニタリングレポートを作成する。 このために、個々のCPAにおいて収集・整備されたモニタリングデータは、調整管理組織が管理するプロジェクト・データベースに報告され、各CPAおよびPoA全体についてのCERsの計算がなされる。 一次的なモニタリングデータの保管は各CPA及び調整管理組織において、一定期間行う。また、計算結果についても調整管理組織で一定期間保管し、特にCERsについては、それが帰する各CPAに対して、モニタリングレポート作成後にフィードバックとして伝える。
- CPAとしてのモニタリング計画(杭州銭江印染有限公司)
プロジェクト事業者は、以下の方法によりモニタリングを行い、クレジット獲得期間中の排出削減量の確認に利用する。 ①本プロジェクトの適応するモニタリング手法:
本事業は、省エネ機器を用いた熱及び電気の消費節減により温室効果ガスを削減するものであり、また年間の削減エネルギー量44.28GWhは60GWh以下であるから小規模CDM方法論AMS-II.C.が規定する条件に合致するため、同方法論のモニタリング手法が適用できる。
SSC-PoA-DD の規定に基づき、CPAである浙江省銭江印染有限公司に関するモニタリング計画について述べる。
②モニタリング組織:
プロジェクト事業者はデータの収集、収集、管理、検証を担当するCDMチームを編成する。責任者であるチームリーダーはCDM専門家によって技術的な訓練を行い、またサポートを受けることとする。
③本プロジェクトのモニタリングに必要なパラメータ:
プロジェクト事業者は、以下の方法によりモニタリングを行い、クレジット獲得期間中の排出削減量の確認に利用する。
④モニタリング機械・設備:
⑤品質管理及び品質保証:
本プロジェクトにおけるモニタリング項目は、主にテンターの電力消費量と熱利用量である。モニタリングの品質管理及び品質保証のための手続としては(1)モニタリング機械-電力計と流量計の設置、データの定期的な測定、記録
⑥データ管理:
取得・整備したモニタリングデータはPoAの調整管理組織に定期的に提供し、調整管理組織は定期的にモニタリングレポートを作成する。合わせて調整管理組織は全CPAから報告されたモニタリングデータのバックアップコピーを保管する(原則として2年間)。
⑦テンターの増設、新設及び廃却の場合のモニタリングの方法:
事業者がテンターの更新を伴う場合、更新時に廃却される設備の仕様・シリアル番号・更新年月日について記録を行い、調整管理組織による立ち入り検査での検証が終了するまでは、更新された機器を廃却しないよう「CPA 実施合意書」の中で義務付ける。
増設、新設された設備についても同様設備の仕様・シリアル番号・更新年月日について記録を行い、同じ方法でモニタリングを行う。
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環境影響等 | 本CPAの環境影響に関する基準は以下である。基準名 | コード | 環境の空気質量標準 | GB3095-1996 | ボイラ大気汚染物の排出標準 | GB13271-2001 | 工業企業工場域内の騒音標準 | GB12348-2008 | 都市区域の環境騒音標準 | GB3096-2008 | 排水の総合排出標準 | GB8978-1996 | 紡織染整工業汚水排出標準 | GB4287-92 | 本CPAは上記の各環境基準を満たす。 |
事業化に向けて | 杭州銭江印染化工有限公司の親会社である浙江航民股份有限公司、緑章(北京)新能源技術有限公司、及び九州電力は、工場の省エネ改修検討に関する協定を締結しており、PoA化に適した体制であると考えられる。
調整管理組織としての役割を果たすことを想定している緑章では、以下の理由によりPoA化を有望視している。①中国政府はP-CDMの申請を歓迎する。 現在中国政府が承認したP-CDM(プログラムCDM=PoA)案件は3件と少ないが、P-CDMに対する審査基準が一般CDMより厳しい訳ではなく、小規模のため手続きが膨大であり、事業者からの案件申請が少ないからである。
②ポテンシャルが大きい。 中国全国のテンター保有台数は5,000~6,000台、その中で浙江省の保有台数は2,000~3,000台である。一工場当たりの保有台数が第1号CPA候補の銭江印染化工並みの規模だと想定するとCPA候補として100~200社が想定できる。
③調整管理組織(CME)としての条件を満たしており、意欲的である。 中国の行政許可法の規定により、中国で調整管理組織になりうる主体は政府機関及び事業単位(公的資金を受けている業界団体等)を除く機関・団体・企業に限られているが、緑章は民間企業であるため十分な資格を持っており、また調整管理組織としての機能を十分理解している。
また、CPAのモデルサイトとして想定している杭州銭江印染化工有限公司では、以下の理由によりPoAを前向きに考えている。①日本独自開発の高効率テンター(以下、高効率テンター)への技術的信頼性が高い。 銭江印染化工は高効率テンターの性能に対する評価が高く、2011年3月には日本を訪問し、更なる技術確認を行う予定である。
②CDM化による計経済性向上に期待している。 一般事業として実施する際の価格に対する懸念はあったが、CDMによる排出権の売却益により、十分な経済性が見込まれるので、本プロジェクトに対して前向きである。
③調整管理組織(CME)である緑章を信頼しており、緑章がバイヤーとの窓口となってクレジット売却益を得、各企業にフィードバックする方法に賛同している。 現在、PoA調整管理組織とCPA企業との間で、日本独自開発の高効率テンター導入に向けた意向書の締結を協議しており、中国での競合機(韓国製)に対する省エネ効果証明のためのエネルギー消費量の計測及び日本の染色工場(高効率テンター稼動)視察の結果により、契約締結の可否が決まる予定である。
今後、以下の取組みにより、韓国製テンター等の安価な機器に対する日本独自開発の高効率テンターの優位性を訴えていくこととしている。①省エネ効果について- 高効率テンター及び中国での競合機(韓国製)の稼動運用時のエネルギー消費量計測を行い、省エネ効果の更なる定量化を進める。それにより、高効率テンターの省エネ効果の優位性を証明する。杭州銭江印染化工有限公司の既存テンター(韓国製)のエネルギー消費量調査を行った結果、1台当り約60万kcal/hの熱エネルギー及び約70kWの電気エネルギーが使用されていることが分かった。これにより、ベースライン排出量の計算で想定した化石燃料及び電気エネルギーの想定が妥当であることを確認できた。プロジェクト排出量については、今後日本独自開発の高効率テンターがCPAに導入された時点で計測・検証を行っていくこととする。
②価格について- 高効率テンターは競合機(韓国製)より価格面で不利だが、省エネ効果によるエネルギーコスト削減と排出権クレジット収益によって回収可能であること、また性能や耐久性の向上による価格以外の優位性があることを訴えていく。
③プロモーション- CPA企業に日本で稼動している高効率テンターを実際に見学してもらい、その省エネ効果・品質面での優位性を実感してもらう。
- 浙江省印染行業協会主催のセミナーや業界紙等で高効率テンターの紹介を行い、認知度を向上させる。
- 浙江省染色業界においては、企業間の情報交換(口コミ)による効果が大きいため、1件目のCPAをショーケースとしてアピールすることを検討する。
浙江省内にある200社の染色企業のうち20%にあたる40社を、高効率テンター導入による省エネ効果及びP-CDMの活用に関心の高いCPA候補工場としてリストアップした。また、浙江省内に200社のCPA及び2,000台のテンターがあると想定した場合には、POA(浙江省全体)で約200万tCO2/年、現時点でCPA候補確認済みの40社で約40万tCO2/年の温室効果ガス削減効果が期待できる。 |
「コベネフィット」効果 (ローカルな環境問題の改善の効果) | (1)ホスト国における環境汚染対策等効果の評価 「コベネフィット定量評価マニュアル(第1.0版)」によると、大気質改善分野の評価においてTier 2又はTie r3における評価方法を採用する場合、ベースライン及びプロジェクトケースでの大気汚染物質の排出源における燃料消費量及び燃料中汚染物質濃度のデータが必要となる。本PoAのように、石炭消費量の抑制に加え省電力による大気汚染物質量の間接的な削減がある場合には、発生源である電網公司(華東グリッド)からの情報開示が必要である。H21年度調査において、当該データが存在しない旨コメントを得ているため、本コベネフィット評価では、省電力による間接的な効果については、CO2削減量の考え方同様に、発電所におけるSO2、NOx、煤塵の排出原単位を推計し、省電力量からこれらの削減量を推計する。
石炭火力発電所からの大気汚染物質排出原単位(t/GWh)
| 1996年 | 2000年 | 2002年 | 2005年 | 2007年 | SO2 | 10.4 | 8.15 | 6.11 | 8.03 | 4.67 | NOx | 5.77(注) | 4.21 | 3.87 | 6.90 | 3.11 | 煤塵 | 8.21 | 2.84 | 2.01 | 3.35 | 1.10 | (注)5.77kg/t-coalであり、他と単位が異なる。
| OM | BM | CM | SO2 | 4.67t/GWh | 200mg/m3 →0.25t/GWh | 2.46t/GWh | NOx | 3.11t/GWh | 400mg/m3 →0.50t/GWh | 1.81t/GWh | 煤塵 | 1.10t/GWh | 30mg/m3 →0.04t/GWh | 0.57t/GWh | 上記排出係数に、本調査で対象としたCPAでの省電力量35MWh/年を乗じることで、大気汚染物質の削減量を評価することが可能となる。
(2)コベネフィット指標の提案 環境負荷量そのものだけでなく、その低減によって環境外部コストの低減を図ることが可能であり、それがコベネフィット指標となりうる。本調査では、日本版被害算定型影響評価手法(LIME:Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling、産業技術総合研究所と国のLCAプロジェクトの連携により公表)を用いて、環境負荷のダメージ回避のWTP(Willingness to Pay)によるダメージ軽減の貨幣換算効果を試算する。なお、貨幣換算値はあくまで日本における受容のレベルを示すものである。 LIMEの換算係数は日本の地域性が反映されたものであり、日本での被害係数としての利用を目的としている。従って、本方法を中国において適用する場合、WTP上の価値が日本と同様であると見なすことが前提となる。
排出物質 | 換算係数(円/kg) | CO2 | 1.74 | NOx | 141.22 | SO2 | 1,014.73 | SO2については約9万円/年、NOxについては約1万円/年、CO2については約5万円/年と試算される。CO2だけの環境外部コストに大気汚染物質の影響を加味すると、その効果は約3倍にもなり、特にSO2の削減効果が大きく寄与することが示された。
本プロジェクトによる環境外部コスト排出物質 | 省電量 (GWh/年) | 排出原単位 (t/GWh) | 大気汚染物質排出削減量(t/年) | 換算係数 (円/kg) | 環境外部コスト (万円/年) | SO2 | 0.035 | 2.46 | 0.09 | 1,014.73 | 9.1 | NOx | 1.81 | 0.06 | 141.22 | 0.8 | 煤塵 | 0.57 | 0.02 | - | - | CO2 | 782.6 | 27.39 | 1.74 | 4.8 | 合計 | | | | | 14.7 |
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ホスト国における持続可能な開発への寄与 | - |