タイ・キャッサバ粕利用エタノール製造プログラムCDM事業調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名タイ・キャッサバ粕利用エタノール製造プログラムCDM事業調査
調査年度2008(平成20)年度
調査団体株式会社前川製作所
調査協力機関カセサート大学農業・農産加工品改良研究所(KAPI)、マエカワ(タイランド)、有限会社クライメートエキスパーツ、独立行政法人産業技術総合研究所
調査対象国・地域タイ
対象技術分野バイオマス利用
対象削減ガスメタン(CH4)
CDM/JICDM
プロジェクト実施期間/クレジット獲得期間PoA:2012~2039年(28年間)
CPA:上記期間内で10年間・更新なし、または7年間×最大2回更新
報告書
プロジェクトの概要 タイ・タピオカスターチ協会(TTSA)の会員企業(キャッサバスターチ工場)を対象として、スターチ工場敷地内にキャッサバ粕を原料としたエタノール製造プラントを建設する。キャッサバ粕は特に雨期においてはスターチ工場内に野積みで保管されており、その間に腐敗が進みメタンガスや臭気を発生している。本プロジェクトでは、そのようなキャッサバ粕をエタノール原料として活用することで、メタンガスの発生を抑制する。
 なお、スターチ工場1工場あたりの「メタンガス抑制効果」によるCERはさほど大きいものではないため、TTSAが管理・調整組織となり複数の事業をとりまとめてCDM化するプログラムCDM事業とすることで、個々の事業におけるCDM理事会承認手続き費用負担を減らし、数多くの事業をCDM化することを目指す。
ベースラインの設定 ベースラインシナリオはキャッサバ粕の利用を行わずに工場内に保有する間に腐敗によりメタンガスが発生するものである。
 本事業においては、小規模方法論AMS III.E "Avoidance of methane production from decay of biomass through controlled combustion, gasification or mechanical/thermal treatment"を用いてベースライン排出量を算定する。
追加性の証明 本事業は、以下のような複数のバリアに直面しており、CDM事業化することでそれらのバリアが軽減されることから、追加性を有する。
①投資バリア
     エタノールプラントの建設には高額の投資が必要である。本事業では、キャッサバスターチ工場からの副産物のキャッサバ粕を主原料としてエタノール製造を行い、他からエタノール原料を購入することは想定していないため、約30kℓ/日程度の生産量であり、これはタイの一般的なエタノール工場よりもかなり小さい規模であるため、事業採算性は圧倒的に悪い。従って、本事業はCDM事業化によるCER収入なしでは実施しないといえる。
②技術バリア
     タイにおいてキャッサバ粕からのエタノール製造は実施例がなく、また他国でも実施していない。過去にタイの研究機関でもラボレベルで試験製造を試みたが、技術的な課題があり実現していない。しかし、日本では過去に「キャッサバ粕を主原料としたエタノール製造」を短期間ながら実施していた経験があり、キャッサバ粕のエタノール原料として利用する際の困難性を克服するノウハウを有している。本事業は、日本からの技術指導などの支援なしでは実現しないという技術バリアを有する。
GHG削減想定量 キャッサバ粕処理量条件:500ton/日として雨期の7ヶ月(210日)分のキャッサバ粕の野積みを抑制したとして、
  • ベースライン排出量:6,386tCO2/年(メタンガスの発生を抑制する)
  • プロジェクト排出量:1,737tCO2/年(1年間のエタノール製造に伴う排出)
  • 排出削減量:4,649tCO2/年
モニタリング 本PoAの下のSSC-CPAによる排出削減量を算定するために必要なモニタリング・パラメータとしては、エタノール原料として用いるキャッサバ粕量、エタノール生産量、エタノールプラントで消費する化石燃料および電力消費量、エタノール製品輸送によるトラック輸送増加量などである。
調整管理組織であるTTSAがモニタリングマニュアルの作成、CPAからのデータ収集・管理を行う。
環境影響等 本事業では従来はキャッサバ粕保管中にメタンガスが発生していたが、それをエタノール原料として活用することでその発生を抑制するものである。また、エタノールプラントはキャッサバスターチ工場敷地内に建設する。エタノール製造に関する廃棄物の処理は、キャッサバスターチ製造プラント側と同様に地域の規制に準じて行うため、本プロジェクトは新たな自然環境破壊をもたらさない。
事業化に向けて 本調査では、「キャッサバ粕からのエタノール製造事業」に関して、既存の方法論を用いることを前提とした調査を行った。結果、「キャッサバ粕からのメタンガス抑制」をCER化すると概ね数千トン/年程度のCER量であり、CDM事業としては1案件あたりのCERが少ないためにPoA事業化することを計画し、タイ国内のスターチ業界関係者の多くに本事業アイディアを紹介する機会を得た。非常に多くの関係者より本事業に対する関心表明を頂いている。
一方、調査の時点でまだ方法論がない「バイオエタノールによるガソリン代替のCER化」に関しても、スターチ業界関係者やエタノール工場関係者より関心を頂いている。
本事業の事業化に向けて、大きく3つの課題があるといえる。1点目は、キャッサバ粕からのエタノール製造における「技術的課題の解決・実証」、2点目はより多くのCERを獲得できる「ガソリン代替の方法論の開発」、3点目がスターチ業界関係者との調整およびプログラムCDMを実施するための「キャパシティビルディング」である。今後、これらの課題の解決を図り、早期の事業化を目指していく。
コベネフィットの実現 本プロジェクトの実施により、キャッサバ粕保有中の悪臭が低減される。
 AMS III.Eにより計算されるメタンガスの発生抑制量から、メタンガスとともに発生していたと思われるほかのガスの発生抑制量が算定できる。