ウクライナ・キエフ下水処理場メタン回収・発電事業調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名ウクライナ・キエフ下水処理場メタン回収・発電事業調査
調査年度2005(平成17)年度
調査団体清水建設(株)
調査協力機関なし
調査対象国・地域ウクライナ(キエフ)
対象技術分野廃棄物管理
対象削減ガス二酸化炭素, メタン
CDM/JIJI
プロジェクト実施期間2007~2023
報告書概要版概要版(363KB)
詳細版本文(2.6MB) 本文(933KB)
プロジェクト概要ウクライナ国の首都であるキエフ市の下水は、市が所有するキエフボドカナル社が運営するボルトニッチ排水処理場にて処理されている。この下水処理場は1,300,000m3/日の排水を処理しており、処理水はドニエプル川に放流されている。
ボルトニッチ排水処理場では、下水処理に伴って大量の汚泥が発生している。これらの汚泥は、一次沈殿槽から排出される生沈殿物と、曝気槽で増殖し二次沈殿槽から排出される余剰活性汚泥がある。
前者の一部は、既存の閉鎖型嫌気式反応槽で消化処理され、後者は全量が好気式安定化器にて酸化分解されており、処理後の汚泥は(閉鎖型嫌気式反応槽で処理されていない生沈殿物を含め)272ヘクタールある汚泥田と呼ばれる施設にポンプにて搬送される。
汚泥田の本来の目的は汚泥を乾燥させることにある。通常、汚泥の含水率が70~80%にまでなれば、汚泥はこの汚泥田から除去されることになっているが、実際には除去されずに放置されている。この理由は、現在ウクライナでは汚泥を有機肥料等として有効利用するための技術もその社会システムも確立していないからである。
このため、汚泥田の汚泥はその場所で発酵し、悪臭を放っている。汚泥田の発酵のプロセスは、汚泥田の表面では好気的反応、汚泥田の中の方では嫌気的反応となっており、汚泥田からCH4が発生し、地球温暖化に悪影響を与えている。
このプロジェクトでは、現在不完全にしか行われていない汚泥の閉鎖型嫌気式反応槽での消化を、閉鎖型嫌気式反応槽を新設することにより、すべての汚泥に対して適用し、汚泥田へ搬送される汚泥の減量化を目指すものである。同時に、消化により発生したCH4は、コージェネレーションの燃料として使用する。
ベースラインの設定・追加性の証明このプロジェクトに適用できる適当なベースライン方法論は、現在存在しない。そこで、新しい方法論を提案する。この新しい方法論では、ベースラインシナリオは考えられるすべてのシナリオの障壁分析、投資分析を行って決定する。追加性は、プロジェクトの排出量が、ベースラインの排出量よりも少ないことを示すことにより証明する。
ベースライン排出量とプロジェクト排出量の計算は、閉鎖型嫌気式反応槽で処理する前の汚泥と処理した後の汚泥の単位汚泥あたりの排出係数を試験により明らかにし、その数値を適用する。これにより、サイト特有の排出係数を反映した計算が可能である。
GHG削減量1.56×105~1.43×105t-CO2/year
モニタリングこのプロジェクトに適用できる適当なモニタリング方法論は、現在存在しない。そこで、新しい方法論を提案する。この新しい方法論では、閉鎖型嫌気式反応槽で処理する前の汚泥と処理した後の汚泥の量をモニタリングし、試験により得られた汚泥の排出係数と各々掛け合わせることによって、ベースライン排出量とプロジェクト排出量を計算する。
環境影響等このプロジェクトにより、環境への顕著な悪影響はない。
事業化に向けて本プロジェクトはERUが獲得できる2009年1月稼動へ向けて準備を進める予定である。
京都議定書が発効した今日においては、本プロジェクトは、①汚泥田におけるCH4ガスの発生量が、事前の試験により明らかとなり、②想定通りに反応槽で消化ガスが発生し、回収・利用されれば、所定のERUを生み出すことは確実である。この理由から、本プロジェクトはJIプロジェクトとして十分実施する価値があると判断される。
しかし、以下のようなリスクも残されており、今後プロジェクトの実施に当たって、注力・注視していく必要がある。
(1)汚泥田におけるCH4ガスの発生量に関するリスク
(2)パートナーに関するリスク
(3)工事に関するリスク
(4)ウクライナのプロジェクト承認に関するリスク
(5)ウクライナのJI参加資格に関するリスク
(6)第2約束期間以降の制度に関するリスク
また、このプロジェクトは、ランドフィルプロジェクトのように少ない投資で多くのERUが得られるプロジェクトではない。そこで、プロジェクトの資金計画では、このプロジェクトを通常のJIプロジェクト部分と、公共事業部分に切り分け、後者を公的資金で行う方法を提案した。キエフボドカナル社も、このプロジェクトに必要なすべての資金を、ERUの経済的な価値と発電による売電収入で賄うことは不可能であるとの認識を持っており、下水道料金の値上げ、キエフ市予算の確保、ODAの活用等、多面的な方策を探っている。ウクライナ政府DNAも、「このプロジェクトはGISで行いうる。」とのコメントを出しており、いかに必要な資金を確保するかが今後の課題となる。