インドネシアの植林の評価方法に関する調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名インドネシアの植林の評価方法に関する調査
調査年度1999(平成11)、2000(平成12)、2001(平成13)年度
調査団体住友林業(株)
調査対象国・地域インドネシア・東カリマンタン州
調査段階プロセス2:プロジェクトの実現可能性の調査
調査概要インドネシア共和国東カリマンタン州における産業植林が、CDMプロジェクトとして成立するために必要なベースライン、間接的影響、リスク、アカウンティング方式といったCDMの重要要件を検討するとともに、これらに共通するモニタリングの方法を調査した。
調査協力機関PT. Sumalindo Lestari Jaya社
調


プロセス1※1(調査対象外)
※2




プロジェクト概要Sumalindoグループが有する造林対象地30万haの中の1万haをモデル地域として、初年度に2000ha、2年度に2000ha、3年度に4000ha植林するプロジェクト。植栽樹種はチーク、マホガニー、スンカイ、ドヴアバンガ、グメリナ。
対象GHGガス二酸化炭素
対象技術分野植林
CDM/JICDM
実施期間30年間
ベースライン ベースラインは、プロジェクトが存在しなかった場合に植林対象地域で吸収される二酸化炭素量ということになる。
 
 まず植林対象地域の調査を行い、胸高直径、樹高の成長量から年間成長量を推定し、炭素蓄積量、固定量を算出した。こうした調査に基づき、表1のように植林対象地域を3つのケースに分けて、病虫害や森林火災などのリスクも考慮したベースラインを策定した。


※リスク評価について
・病虫害については、全事業区の被害状況を調べた結果から、グメリナのの最大被害率は30%、、チークの最大被害率は15%とした。
・森林火災については、調査の結果、8年間に一度、20%の面積が焼失するとした。
GHG削減量○ベースラインケースの吸収量

・ケース1のベースライン
最大蓄積量9.6t/haを期間30年で平準化した値は約0.32t-C/ha/yrであるが、これに森林火災リスク分20%を8年間で平準化した値(2.5%)を減じると、0.30t-C/ha/yrである。これを用いると30年間のベースラインの吸収量は31.7(万t-CO2/万ha)であると予想された。

・ケース2のベースライン
蓄積量24t-C/haを期間30年で平準化した値は約0.80t-C/haであるが、これに森林火災のリスク分20%を8年間で平準化した値(2.5%)を減じると、0.78t-C/haである。これを用いると30年間のベースラインの吸収量は82.4(万t-CO2/万ha)であると予想された。

・ケース3のベースライン
ゼロとした。

○プロジェクトケースの吸収量

 プロジェクト地域の森林の成長量から炭素吸収量を算定する。成長量は当該地域における対象樹種の過去の成長データを解析することによって把握した。

 成長量
 =プロジェクト経過後の森林蓄積量-プロジェクト開始時の森林蓄積量

 さらに、炭素吸収量はについては成長を炭素量に換算したもので、次のような式で表した。

 炭素吸収量
 =材積成長量(m3)×全乾比重×炭素率(0.5)×1.6
 (1.6は枝・葉を含めた樹木全体を算入するための拡大係数)

 プロジェクトによって吸収される量は163.3(万t-CO2/万ha)であると予想された。

以上より、正味のGHG吸収量は
(ケース1)131.6(万t-CO2/万ha)
(ケース2)80.9(万t-CO2/万ha)
(ケース3)163.3(万t-CO2/万ha)

※リーケージとして次のような種類のものがあると考えられたが、明確に定量化できなかったので、その影響は考慮しなかった。
・焼畑耕作のための森林伐開
・薪用材の消費
・住宅のための建築用材
・違法伐採
費用主な経費項目は「機械及び設備費」「植林・育林費」「人件費」「借入金及び返済」で、「木材の売上」も考慮すると、プロジェクト実施経費は3,566万US$/万ha。
費用/GHG削減量(ケース1)27US$/t-CO2
(ケース2)44 US$/t-CO2
(ケース3)25 US$/t-CO2
モニタリング○ベースライン策定に関わるもの
地上及び地下部バイオマス、土壌炭素、落葉落枝(頻度は1回/年)

○リーケージに関わるもの
人口、男女数、戸数変化、村民の出身地域、職業及び就業人口、収入格差の拡大、土地利用の変化、新築住宅着工数、道路網、舗装道路建設、トラック乗り入れ、トラック往来

○リスク(虫害、森林災害)に関わるもの
虫害及び森林火災の被害の有無、被害率、被害面積

○事業性評価に関わるもの
費用対利益比率、正味現在価値、借入金返済期間、投資回収効率、削減炭素1トンあたりの金額
GHG削減以外の影響 インドネシアでは、主要産業である木材加工業の材料ソースである天然林資源の枯渇が顕著になっており、人工林材への転換が急務となっている。

 同国では、1988年より大規模な産業植林が始まったが、その80%以上が短伐期の樹種である。本プロジェクトは短・中・長伐期樹種を組み合わせたものであり、持続生産可能な森林管理に貢献する。
実現可能性 本プロジェクトは初期の10年間は伐採を待ちつづける形となり、事業採算性が悪いが、伐採開始後は相当量の伐採量が確保でき、事業収益も飛躍的に好転する。

 このタイプのプロジェクトとしては平均的なものであろうが、投資案件としては特殊な事業といえるかもしれない。そこに、初期の炭素固定を収入化できる方途として、CDMが導入されればインセンティブとして働くと考えられる。
他地域への普及効果 他地域への普及効果は大きいと思われる。まず、インドネシア共和国内でも、現在600万haの産業植林地が存在し、その半数が将来植林されていくと言われている。

 仮に100万haに、本プロジェクトの結果を当てはめると、3500万Cトンの固定量が期待できる。産業植林以外にも、国有林や地方自治体の所有林でも植林を希求する声は強い。さらに、世界各地に植林適地が存在し、その可能性はきわめて有望であるといえる。
プロセス3※3(調査対象外)
報告書報告書(PDFファイル 1.65MB)
調査評価・本調査は3年間の調査であるが、これを事例として総合的なとりまとめを期待したい。
・CDMをよく理解しており、今後CDMを実施する上で知りたい情報やパラメータを適切に取得し、分析している。そのため、本調査は、事業を検討しようという企業、NGOに参考になるものが多い。
・現実のサイトにおける実測を伴う調査であり、多くの新しい情報をもたらしている。
・CDMの企画、実施に対し、多くの示唆を与える調査になっている。
・UNFCCCの動きを注視していく必要がある。
備考〇ベースラインについて補足

・広域的なベースライン策定を可能にするための森林タイプの類型化は、航空写真撮影によって、事業の対象とする二次林をdbh(胸高直径)≧30cmの比較的大きな樹木の分布を把握することによって可能であることを検討した。

・土壌炭素量の調査では、haあたり深さ30cmまでの土壌中に平均約15.34Cton/haの炭素が蓄積されていることが分かった。地上部現存量と土壌炭素量との間の相関は認められず、地上部現存量の増加に対する土壌炭素量の増加は考慮しなくてもよいと思われた。

 

※1. プロセス1:
具体的なF/S案件を発掘するため、対象国や技術分野を特定せずに、CDM/JIとして広い可能性を考慮した基礎的な調査
※2. プロセス2:
具体的な調査対象国・調査地域、対象技術分野を前提とした実現可能性調査
※3. プロセス3:
実際に炭素クレジット獲得に向け、プロジェクト設計書の作成、バリデーション、炭素クレジットの投資探しなど、F/S終了後に当たるプロセスを行う調査