インドネシア・製鋼用アーク炉におけるバイオマス利用の事業調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名インドネシア・製鋼用アーク炉におけるバイオマス利用の事業調査
調査年度2007(平成19)年度
調査団体スチールプランテック株式会社
調査協力機関PT The Master Steel Mfg.、インドネシアJFE商事(株)、JFEエンジニアリング(株)マレイシア、YBUL、共英製鋼株式会社
調査対象国・地域インドネシア共和国ジャカルタ市
対象技術分野バイオマス利用
対象削減ガス二酸化炭素(CO2)
CDM/JICDM
プロジェクト実施期間/
クレジット獲得期間
2009~2018/10年間
報告書
プロジェクト概要本プロジェクトは製鋼用電炉で使用されている化石燃料をバイオマス由来のヤシガラ炭に置き換えて、化石燃料から発生する温室効果ガスの削減を目指すプロジェクトである。インドネシアの製鉄所は、鉄スクラップを電気エネルギーで溶解精錬して建材を製造する電炉製鉄所が主流である。このプロセスでは、溶解精錬時のスクラップの過酸化防止や鋼中の炭素分調節、および補助熱源として、精錬される鉄の量の2~3%の化石燃料由来のコークス(一部類似物性の無煙炭やオイルコークス)を使用している。一方、インドネシアや隣国のマレイシアではヤシ油製造業が活況で、この廃棄物であるヤシガラは年間4百万tonのレベルで発生している。ヤシガラの一部は燃料や活性炭原料として利用されているが、廃棄や単純焼却処理されているものの割合は大きい。アブラヤシヤシガラおよびココナツヤシガラから製造される炭は、木質由来の炭に比べて嵩比重が大で強度は高く、製鉄用のコークスに良く似た物性を持つ。本プロジェクトはこのバイオマス由来のバイオ炭(ヤシガラ炭)をコークスに置き換えて、化石燃料から発生する温室効果ガスをCarbon Neutralの原理に基づき削減することを狙いとする。
ベースラインの設定・追加性の証明 本プロジェクトには新方法論を適用する。対象プロセスはアーク熱で鉄スクラップを溶解精錬して建材を製造する電炉製鋼プロセスであり、現在は電気エネルギーの節減と冶金プロセス促進のために粉コークスなどの化石燃料を補助燃料に使用している。バイオ炭の原料となるバイオマス原料は、油ヤシヤシガラまたはココナツヤシヤシガラに限定する。バイオ炭は、これらのバイオマス原料を炭化することによって揮発分を減少させ、かつ固形炭素分を増加させたものである。
ベースラインは、現在の化石燃料からのGHG排出量から粗鋼単位量あたりの排出量を計算し、それに粗鋼生産量を掛けたものとする。
 追加性に関しては、現在はヤシガラ炭価格の方が化石燃料価格よりも高価であることおよび工業規模での使用実績はないことから追加性有と証明される。
GHG削減量年間11,220トン、10年間
モニタリング 粗鋼生産単位量あたりのGHG排出量をベースラインとしてまず確定する必要がある。このためにヤシガラ炭使用前の粗鋼年間生産量、固体化石燃料年間購入量、固体化石燃料中の炭素分のデータを確定する。この3データにより、ベースラインとして固体化石燃料使用時の粗鋼単位量あたりのGHG発生量が確定する。次にプロジェクト実施後の上記3データと、ヤシガラ炭年間購入量、ヤシガラ炭中の炭素分下記データをモニタリングする。これらのモニタリングによりプロジェクト実施時のGHG発生量およびGHG排出削減量が求まる。これらのモニタリングはすべてプロジェクト実施企業内で行う。
環境影響等 昨今アブラヤシ農園の拡張による原生林の伐採が問題となっているが、本プロジェクトは農園の拡張を意図するものではなく、ヤシ油工場廃棄物の有効活用を図るものである。ヤシガラ炭製造プロセスにおいて懸念される大気汚染に関しては、ヤシガラ炭製造業者と検討中であり、該当国の排出基準に会った設備を設置できる。
事業化に向けて コークスおよび化石燃料の価格はここ数ヶ月の間、上昇を続けていて、ヤシガラ炭価格も同じように上昇中である。昨今の石油価格高騰にともないコークス価格もヤシガラ炭価格も非常に流動的であるが、経済性試算は最新の調査データである、粉コークス価格200US$/ton、ヤシガラ炭価格250US$/tonを前提とした。PDDに記載の年間化石燃料使用削減量は3,600ton/yrで、これによるGHG排出削減量は11,220tonCO2/yrとなる。経済性試算はCER creditが20US$/tonCO2の場合には、CDMによる収入がヤシガラ炭切り替えによるコストアップを44,400US$/yr上回る。
現在のところ輸入コークスとこれに代わる無煙炭やオイルコークスの価格が上昇中で、プロジェクト実現には有利な方向であるが、ヤシガラ炭価格も上昇しているためポイントとなる価格の設定が困難な状況である。供給余力は十分にあるため、コークスの価格上昇と需給逼迫に懸念を示す鉄鋼業がヤシガラ炭の使用に踏み切ればプロジェクトの実現は近いと考えている。本件は新方法論を適用することになり、PDDは新方法論を前提に作成した。新方法論の承認に6ヶ月ほど見込み、その後PDDの修正とプロジェクトの申請に掛かるため、プロジェクトの開始は2009年1月を予定している。