ベトナムにおける排出権獲得の為の民間資金を活用した環境植林CDM事業化調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名ベトナムにおける排出権獲得の為の民間資金を活用した環境植林CDM事業化調査
調査年度2002(平成14)年度
調査団体(株)日商岩井総合研究所
調査対象国・地域ベトナム
調査段階プロセス2:プロジェクトの実現可能性の調査
調査概要ベトナム戦争により、爆弾や枯葉剤などにより森林が大きく破壊され、フエ省などの中部地域では雨季の時期に洪水の被害にも見舞われている。本案件は、荒廃した土地の植生回復を目指した、民間資金による環境植林 である。
調査協力機関ベトナム農業地方開発省(MARD)、Jaakko Poyry Consulting
調


プロセス1(調査対象外)




プロジェクト概要ベトナム中部のフエ省のアルイ地方を対象に、ベトナム戦争により荒廃した地域の中で、バイオマスストック量の小さい(ベースラインが0と考えられる)ベアーランド6地域 4,247Ha((1)Bo川周辺、(2)A So地区周辺、(3) ホーチミンロード周辺南部、(4)A Luoi中心部周辺、(5)A Sap川周辺、(6)ホーチミンロード周辺北部)を対象に、アカシアHybridによる環境植林(外来種であるアカシア、ユーカリに加え固有種が求められる地域では、Cinnamomum Cassiaを取り入れる)
対象GHGガス二酸化炭素
対象技術分野植林
CDM/JICDM
実施期間クレジット獲得期間:7年間及び10年間 
ベースラインベアーランドを対象にしているので0と考えられる。
GHG削減量CO2吸収量の考え方
1)既存植林地9ヶ所の成長量の実測値を踏まえ、植林候補地の樹木の成長量MAI
  (m3/ha/年)をエリア((1)~(6))ごとに推定
2)植林対象地域のMAIは、対象地に占める各エリアの面積でエリアごとのMAIを
 加重平均して算出⇒13.0m3/ha/年(シナリオ1)
 樹種、病虫害などを考慮して±20%、+40%の成長のケースを想定
⇒MAI=10.4(シナリオ2 :気候や虫害等の諸条件を考慮)
 ⇒MAI=15.6(シナリオ3:成長量が大きいケース)
 ⇒,MAI=18.2(シナリオ4:アカシアHYBRIDを中心にするなど特に成長量を最大化)
3)二酸化炭素吸収量(ton-CO2/ha)
=MAI×全乾比重×拡大係数×炭素含有率×44/12
  (全乾比重:0.45、拡大係数:1.5、炭素含有率:0.5)
4)成長量曲線を簡易化し、1~7年目までは一定のスピード[(2)で設定したMAI] で
成長し8,9年目には成長のスピードが半減し、10年目にはさらに半減すると仮定。 



※シナリオ2,3,4のCO2固定量の推移はそれぞれ上の グラフを-20%,+20%,+40%の移動させたものになる


リーケージについて
「捨てられた土地」を対象としており、また周辺住民よりの聴き取り等により、環境植林候補地において農地等のための現状の土地使用はなく、プロジェクト・バウンダリーよりのリーケージはない

費用〇植林コスト(荒廃地地拵え、植栽、下刈り、管理,肥料、人件費他)
⇒500US$/ha
※CDM環境植林の実例が皆無なので、類似の産業植林の例3つを参考に算出

〇CDM化に係る費用
 PIN・PDD・DOE関連費用(150,000US$)
 モニタリング費用,検証・認証費用(50,000US$)
 CER発行費用(発行されるCERの2%)
費用/GHG削減量シナリオ(シナリオ1,2、3,4)、プロジェクト期間(7年、10年)、炭素クレジット価格(3,5,7,9US$/CO2)で場合分けした内部収益率(IRR)

モニタリング植林地における一年あたりの樹木成長量(MAI)を求めるためのモニタリング方法
1.植林地内で無作為に一定範囲のエリアを選択(半径10~20メートルの円)
2.その円内の全ての樹木に番号付け
3.その樹木の1本1本の胸高直径(地面から高さ1.3メートル)及び樹高を測定
4.そのデータと近似式からその樹木のバイオマス量を算出
5.そのバイオマス量と植林密度からMAIを算出
6.その土地の状態、樹種の選定方法、管理方法などを総合的に加味して、植林地全体のMAIを推定
GHG削減以外の影響1)経済的な側面
・植林に適する期間が限られる一方、大規模な植林実施には多数の労働力を要するため、適切な労働力確保の問題がある。資金が現場レベルにいかに効率的に届くかという観点から、効率的な資金管理体制の構築が必要となる。
2)社会・文化的な側面
・ 植林対象地並びにその周辺地域の住民が当該地で何をしているか、植林と住民が共生できる植林事業の検討に加え、植林事業による雇用創出効果など地域住民の生活への影響を精査する必要がある。こうした植林実施による社会経済面への影響に加え、自然環境面への影響に関する調査も必要である。
・地域が指定された場合、そこの住民が当該地で何をしているか、移動の問題を含め、植林と住民との共生の問題の検討が必要である。環境植林では補植などの森林保全をしつつ、永続的に森林を残すため、地域特性を踏まえつつ、植林・森林管理等によって地域住民の就業機会が永続的に保たれるように工夫する必要がある。
3)環境影響
・民間資金を呼び込む為には生長の早く、データの集まり易いアカシアが主要な樹種となろう。裸地であるとはいえ草木の植生は存在し、戦争後の年月の中での1つのエコシステムができていることは否めず、ここに外来樹種を植えるという行為は現在の植生に対する撹乱であり、保全生態学の視点からは生物多様性を損なう行為と見られることが予想される。しかしながら(これも結局は人為的な撹乱かもしれぬが)土地の回復を待った持続可能な伐採、再植林の計画立案を政府と促すことにより、長い年月をかけ在来樹種への入れ換えをはかっていくことで戦争前の状態に近づけていこうとする試みは、現在の政策とも合致し奨励されるべきものと考慮する。いずれにせよこの問題はベトナム政府側の理解が必要であり、本環境植林実行の前提とも言える。
・計画されるCDM環境植林についての樹種はFSIV(Forest Science Institute of Vietnam)傘下のRDFTI(Research Centre for Forest Tree Improvement)よりの強い推薦もあり、アカシアHybridを検討する。同研究所によると収量がA.Mangiumより30%、A.Auricuriformisより50%高いという結果を得ているとの事である。外来種であるアカシアに加え固有種が求められる地域では、Cinnamomum Cassiaを中心に試験植林を考える。尚、現地において既に植林実施のシステム構築が完了しているA.Mangiumは早期にプロジェクト開始する場合の対応種となりうる。
実現可能性(調査対象外)
他地域への普及効果・民間資金による環境植林CDM事業を全国的規模(10省)で拡大するように更なる要請を受けるに至っている。
プロセス3
報告書概要概要版(PDFファイル 85KB)
本文本文(PDFファイル 13.4MB)
調査評価* 国の政策として植林を進めると言う環境があることは事業の強い追い風になる。
* C価格が低い場合、事業が成り立たないと言う結論であるが、植林の効用をCのみに捉えているが、より広い見方も可能なのではないか?
* 環境崩壊が進行する土地への植林事業ということで社会的コンセンサスも得やすく、価値があると思われる。ただし、土地の崩壊度に応じて、植林のために普通の土地以上にエネルギー投入が必要になると予想されるので、その分のCO2放出分の項目を詳細検討して加えるべき。
* 報告書の表題で用いられている「環境植林」の定義が不明確である。
* 報告書で指摘されている、1)植林事業地確保の問題、2)植林実施上の問題、3)社会的問題、は相互に関連した問題であり、事業全体のフィージビリティを左右するだけでなく、対象地域の持続可能な開発とも密接に関連した問題であることから、さらに検討を加える必要があると思われる。
*本プロジェクトは、環境植林CDM事業のモデルともなるもので重要といえる。なお、一つのマニュアル化となるよう更に期待したい。
備考
※1. プロセス1:
具体的なF/S案件を発掘するため、対象国や技術分野を特定せずに、CDM/JIとして広い可能性を考慮した基礎的な調査
※2. プロセス2:
具体的な調査対象国・調査地域、対象技術分野を前提とした実現可能性調査
※3. プロセス3:
実際に炭素クレジット獲得に向け、プロジェクト設計書の作成、バリデーション、炭素クレジットの投資探しなど、F/S終了後に当たるプロセスを行う調査