インドにおける廃糖蜜等からのエタノール燃料の製造に関する調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名インドにおける廃糖蜜等からのエタノール燃料の製造に関する調査
調査年度2002(平成14)年度
調査団体新日鉱テクノリサーチ(株)
調査対象国・地域インド
調査段階プロセス2:プロジェクトの実現可能性の調査
調査概要世界有数の砂糖生産国であるインドで、砂糖キビの生産工程から得られるモラセスやバガスを原料としてエタノールを生成し、ガソリンに添加することで、自動車燃料であるガソホールを製造する。ガソリンの一部をガソホールに代替することによりCO2を削減する。このガソホール生産について、商業ベースで生産するために必要な脱水工程への新技術の導入やバガス等代替燃料の利用による省エネ・コスト削減、温室効果ガスの削減効果について検討し、CDMプロジェクトとしての実施可能性について調査するものである。
調査協力機関日陽エンジニアリング(株)、ワラナ砂糖工場
調


プロセス1(調査対象外)




プロジェクト概要サトウキビを原料とした砂糖精製工場の隣にエタノール生成工場を建設し、砂糖を製造する際に副生するサトウキビのモラセス(廃糖蜜)を発酵させて生成した無水エタノールを、ガソリンに10~20%程度添加し、ガソホールを製造する。自動車のガソリン代替に利用することにより、既存のガソリン使用量が削減され、CO2排出量の削減が可能となる。
 自動車燃料として利用するため、安定的にエタノールを供給する必要があり、モラセスだけでなく、バガス(絞り粕)からもエタノールを製造するケースも想定する。バガスはセルロースが主成分であるため、エタノールを生成するためには、発酵の前に糖化(加水分解)処理を行わなければならない。
 また、更にエタノールが不足する場合は、砂糖の原料となるケインジュース(糖汁)からも製造することが必要(ケース3)となる場合も考えられるが、ここでは、ケース1、2での事例とする。
 対象とする砂糖工場の規模は、砂糖キビ処理量:142.5万t/年、砂糖生産量:15万t/年とし、副生するモラセスのエタノール生成のための利用生産量:5.7万t/年、バガス利用可能量:9万t/年の規模を想定し、モラセスのみからの製造をケース1、モラセスとバガス両方からの製造をケース2とする。生成された無水エタノールは近くの油槽所に運搬する。
 工場内では、砂糖濃縮、発酵、蒸留、脱水(無水化)などの工程で、エネルギーを必要とし、ケース2では更に糖化にエネルギーが必要になる。燃料はバガスを利用するが、ケース2では、バガスを燃料に使用するため、化石燃料の使用を行わない場合、エタノール生成の原料として使えるバガスは制限されることになる。




対象GHGガス二酸化炭素
対象技術分野バイオマス利用
CDM/JICDM
実施期間クレジット獲得期間:2006~2015年の10年間                                          (2003~2005年はCDM事業の手続き、詳細計画、入札、工事などに要する)
ベースライン

プロジェクトバウンダリー



ワラナ砂糖工場(砂糖キビ処理量:142.5万t/年、砂糖生産量:15万t/年、モラセス生産量:5.7万t/年、バガス利用可能量:9万t/年)で生産されるエタノールによるガソリン使用量の削減(ガソホールの導入)、ガソホール生成ははミラージ油槽所 を想定 
  
ケース1:モラセスだけからのエタノール生成(14,300kL/yr)
ケース2:モラセスとバガスからのエタノール生成(27,800kL/yr)


1)ワラナ工場で副生するモラセス(ケース1、2)、バガス(ケース2のみ)は全てエタノール生成に使用し、生産されるエタノールは全てガソホールに使用する
2)ケース1、2において、モラセス(5.7万t/yr)からの無水エタノール生成量は、収率0.25kl/t-モラセス とする。
3)ケース2において、バガスからの無水エタノール生成量は、工場内のエネルギーバランス(砂糖濃縮、糖化、発酵、蒸留、脱水など)から、バガスのみを工場内燃料とする(化石燃料は不使用)ことにより算定 
⇒発生するバガス(39.9万t/yr)の内、エタノールの原料としての利用可能量は9万t/yr、収率0.15kl-エタノール/t-バガス とする。     
4)バガスを燃料としたボイラー効率は80%と想定
5)エタノールの輸送に伴うCO2排出は考慮していない

GHG削減量GHG削減量=ベースライン排出量(ケース1:38.9万(t-CO2/10年)  ケース2:75.6万(t-CO2)10年)
費用プロジェクト経費
【ケース1】                                            
労務費:47,000 US$/年(37人×106US$/人・月)
原料代:285,000 US$(単価:5 US$/t)
用役費:89,000 US$(蒸気、水、薬品類)
副資材:137,000 US$
管理費:57,000 US$(1.0 US$/処理原料t)
設備管理費:139,000 US$(1%/設備費)
設備費:13,930,000 US$ 

【ケース2】                                            
労務費:61,000 US$/年(50人×102US$/人・月)
原料代:735,000 US$(単価:5 US$/t)
用役費:241,000 US$(蒸気、水、薬品類)
副資材:737,000 US$
管理費:147,000 US$(1.0 US$/処理原料t)
設備管理費:422,000 US$(1%/設備費)
設備費:42,244,000 US$

モラセスの購入費
 5~10 US$/kl 
無水エタノールの販売収入
 333~583 US$/kl 
費用/GHG削減量ケース1,2 ともに、
○自己資金:初期投資の15%
○借り入れ金:85%
○減価償却:10年(定額)
○金利:2%
○法人税:35%
として、キャッシュフロー分析を行った結果
モニタリング【原料、副原料の受入れ量】
 ○砂糖工場での受け入れる砂糖キビ、薬品類、その他副原料の使用量を帳簿により把握、管理           【無水アルコールの生産量】 
 ○生産した無水アルコールの内、ガソリンの混合用に使用する量とそれ以外の用途に使用する量を正確に把握   【エネルギー使用量】    
 ○砂糖工場及びアルコール工場で運転開始、運転停止時及び異常停止等の場合に、化石燃料が使用された場合にはその量を正確に把握(CO2の発生量に加えることが必要あり)
【ガソホールの生産量】 
 ○無水エタノールを受入れる油槽所におけるガソホールの生産量について、生産量・出荷量を把握することが必要
GHG削減以外の影響1)経済的な側面
・砂糖キビ工場で廃棄されていたモラセス・バガスを原料にしている為、プロジェクトに起因するプロジェクトサイト内外における負の土地利用の変化は起こらない。しかし既存のモラセス・バガスが利用できない場合は新たに砂糖キビを増産し、モラセス・バガスを生産することとなる。この場合、相当量の砂糖が併産され砂糖相場が軟化する。今後、砂糖キビ、モラセス・バガスの生産と使用用途の最適なバランスについて検証が必要である。
・同上の検証をすることにより、プロジェクトが実施されることによる、他の廃棄物利用に悪影響を及ぼさない対策を構築できる。
2) 社会・文化的な側面
・エタノール製造工場はプロセス産業である、農村にこれらの工業が誘致されることにより、地域の技術レベルの向上が図れる。
・農村の現金収入の増加と砂糖の安定生産により、農家の収入が安定し、文化活動や教育水準を向上させるゆとりが生まれる。
・地域住民に廃棄物を資源として再利用する知識が得られる。
・文化遺産等に関する記述はない。
・廃棄物の有効利用の促進につながる。
3) 環境影響
・砂糖工場ではスペントウォッシュという液体廃棄物が排出される。これを発酵させることによりメタンガスを発生、エネルギー源として回収・有効利用する。その残液はアンモニア濃度が高く、カリウムを多く含む液体肥料として砂糖キビ畑に使うことで大地に還元する。自然サイクルで循環利用することで排水による汚染を解決する。
・バガスボイラーの増強による大気汚染については集塵機の設置等により煤塵対策を施せば、燃料中に硫黄分が殆ど含まれていない為、SOxの心配は余りない。
実現可能性
他地域への普及効果砂糖キビの栽培はインド全域で行われていて、稼動工場は400を超えていることから、他の類似地域で実施しても、その実現可能性やGHG削減効果は期待できるが、設備コスト負担が大きいこと、効率的な発酵技術や脱水技術について情報不足なので、実現に至っていない状況である。
プロセス3(調査対象外)
報告書概要概要版(PDFファイル 24KB)
本文本文(PDFファイル 995KB)
調査評価* このプロジェクトは、インド政府のCDMに関する政策のみならず、農業政策、エネルギー(燃料)政策の動向と深く関係していることに注意する必要があり、このため、政府レベルでの事業実施可能性の確認がなされることが必要と考える。
* サトウキビ、モラセスからエタノールを製造しガソリンに添加するケースは、CO2削減やCDM事業に貢献できると考えられる。バガス→糖化の場合は、他の手法(酸加水分解法)等との比較も含めたネットのエネルギー/CO2収支計算が必要。地域の雇用促進には貢献できる。
* ガソリンのガソホールへの転換は、CO2削減目的とともに、報告書で指摘されているように、インドにおいては特に①農民生活安定化・雇用機会増大、②原油輸入の削減による外貨節約が重要な目的となる。これからの目的達成は、CDMプロジェクトの持続可能な開発に対する寄与を評価するうえで重要なものであり、さらに検討すべきではないか。
*バイオマスからのエタノール生産は重要なシステムの一つであることから、解析・評価を行うことで期待できる。
備考
※1. プロセス1:
具体的なF/S案件を発掘するため、対象国や技術分野を特定せずに、CDM/JIとして広い可能性を考慮した基礎的な調査
※2. プロセス2:
具体的な調査対象国・調査地域、対象技術分野を前提とした実現可能性調査
※3. プロセス3:
実際に炭素クレジット獲得に向け、プロジェクト設計書の作成、バリデーション、炭素クレジットの投資探しなど、F/S終了後に当たるプロセスを行う調査