調査名 | 南スマトラ州の産業植林木等バイオマスを利用した炭化・発電事業の可能性調査 | ||
調査年度 | 2001(平成13)年度 | ||
調査団体 | (株)関西総合環境センター | ||
調査対象国・地域 | インドネシア | ||
調査段階 | プロセス2:プロジェクトの実現可能性の調査 | ||
調査概要 | インドネシアで大規模に実施されている産業植林事業において、排出される大量の残廃材を炭化し有効利用するとともに、在来種フタバガキ樹種による長伐期型の植林を組み入れることで、代替エネルギーへの転換やCO2の長期固定化を図るバイオマス利用事業の発展の可能性を調査した。また廃材の発電利用も検討した。 | ||
調査協力機関 | ムシフタンベルサダ社(ムシ社):インドネシアで有数の大きな植林会社 タンジュンエニム社:パルプ製造会社 | ||
調 査 結 果 | プロセス1※1 | (調査対象外) | |
※2 プ ロ セ ス 2 | プロジェクト概要 | 大規模産業植林事業から排出される大量の残材、及びパルプ生産時の廃材(バーク、ウッドロス、チップダスト)を炭化や発電によって有効利用するとともに、在来種フタバタギ樹種による長伐期型の環境植林を行い、代替エネルギーへの転換やCO2の長期固定化を図るバイオマス利用プロジェクト(図1) | |
対象GHGガス | 二酸化炭素 | ||
対象技術分野 | バイオマス利用 | ||
CDM/JI | CDM | ||
実施期間 | 20年 | ||
ベースライン | 南スマトラ州において本事業に比する規模のバイオマス廃物炭化事業は存在せず、現地ではバイオマス廃物の一部がパルプ工場運転の動力をまかなうための自家発電に利用されているが、必要以上の発電を行って余剰電力を電力会社に販売するような送変電設備などの基盤整備が整っていない。 よって、現地において数年以内に自家発電量が著しく増加したり、バイオマス廃物を利用したその他GHG排出削減プロジェクトが導入される可能性は低いと考えられる。従って、ベースラインは植林地から出る残材や、パルプ工場から出る廃材の量が変化せず、未利用のまま放置され、分解して全てCO2として大気中に排出されると仮定して計算を行った。 | ||
GHG削減量 | まずプロジェクトバウンダリーを以下のように定め、GHG削減量を求めた。 ・地域の範囲として、ムシ社植林コンセッション296400haとそれに隣接するパルプ工場。 ・活動の範囲として林地算材の利用(植栽、保育、収穫などの森林管理は含まず、林木の収穫が終了したあとの残材処理)とパルプ工場廃材の利用(パルプ生産に直接関わる加工工程は含まず、ヤードに積まれた廃材処理) 〇林地残材の炭化による削減量 林地残材の発生量:151145ton/年、含水率:15%、収炭率:20%、年稼動:11ヶ月、炭に含まれる炭素の割合:80%とすると、20年間に炭として固定化される炭素は 151145×0.85×0.2×(11/12)×0.8×20=376,816(ton-C) 〇バーク・ウッドロスの炭化による削減量 バーク・ウッドロスの発生量(乾燥):47196ton、収炭率:25%、年稼動:11ヶ月、炭に含まれる炭素の割合:80%とすると、20年間に炭として固定化される炭素は 47,196×0.25×(11/12)×0.8×20=173,008(ton-C) 〇チップダストを活性炭にすることによる削減量 チップダストの発生量(乾燥):1,7640ton/年、チップダストのうち素炭(活性炭のもとになるもの)になる率:27%、素炭から活性炭になる率:0.25%、年稼動:11ヶ月、活性炭に含まれる炭素の割合:0.8とすると、20年間に活性炭として固定化される炭素は 17,640×0.27×0.25×(11/12)×0.8×20=17,888(ton-C) 〇プロジェクトを実施したことによる排出量 活性炭製造過程で使用する材料運搬用車両や重機の動力源に軽油が消費される。軽油の排出係数(0.7212kg-C/㍑ 環境庁「二酸化炭素排出量報告書)に推定年間消費量594,000㍑(=日消費量2,700㍑×220日)を乗じた値すなわち428ton-C/年(20年間で8,560ton-C)が当該事業により排出される。 以上よりプロジェクトによって削減されるGHGは (376,816+173,008+17,888-8,560)×(44/12)=2,050,224(ton-CO2) ※ただし、炭化を排出削減としてカウントすることはCOP7終了の時点では認められていないため、今後認められる必要がある。 ※バイオマス発電や在来種であるフタバガキの植林も計画されているが、そこまで加味した計算は行われなかった。 | ||
費用 | 主な経費項目は次の通り。 ・設備費(古ドラム管、炭化炉、賦活炉、重機、トラック、建屋など) ・固定費(償却費、補修費、金利、人件費など) ・変動費(電力、包装費、管理費、輸送費など) ・炭の販売による収益 固定費と変動費の合計から総費用を算出すると、設備償却期間が終了する当初5年間の年間事業費用については、林地残材の炭化方法の違いにより次のようになる。 (ドラム缶方式の場合) 24039万円 (組み立て方式の場合) 26999万円 設備償却後(6年目以降)の年間事業費用については (ドラム缶方式の場合) 20490万円 (組み立て方式の場合) 23455万円 | ||
費用/GHG削減量 | 設備償却前(5年目)の年間排出削減量は102513t-CO2で、年間費用は24039~26999万円なので、この事業の費用対効果は2345~2634円/t-CO2と算出された。設備償却後(6年目以降)の年間排出削減費用は1999~2288円t-CO2と計算される。 以上より全プロジェクト期間を通じて計算すると、GHG削減の費用対効果は2086~2288円/t-CO2となる。 | ||
モニタリング | 当該プロジェクトによるGHG削減量を算出するためには次のような項目についてモニタリングする必要がある。 ・植林地から発生する残材量 ・パルプ工場から発生する廃材量 ・製炭量 ・炭の用途別の量 | ||
GHG削減以外の影響 | ○環境面 ・活性炭の製造には大規模な設備と工場が必要なだけでなく、大量の煙や水蒸気を発生させるため環境問題を引き起こす可能性がある。 ・活性炭製造は、炭素固定という点から見れば貢献度は低いが、用途が、脱臭、脱色、吸着剤などであることから、環境に対する貢献度は高い。 ・バイオマス廃物の野積みに起因する様々な環境汚染や火災のリスク等の問題を解決することができる。 ・林地へ炭を施用することによって、従来使っていた化学肥料の量を削減することが可能である。 ・パルプ工場から離れた遠隔地にあるアカシア林を伐採後、逐次天然林であるフタバガキを植林する計画があり、これは過伐された森林をもとの姿に返すというだけでなく、生物多様性を回復させるという点でも長期的に大きな意味を持っている。 ○経済面 ・炭の使用によるアカシアの成長量の増加はムシ社にとって大きな経済的メリットとなる。 ・農作物の増収は植林地周辺に暮らす住民にとって、収入の増加と生活の向上に繋がる。 ・現地での炭焼に参加した住民はその一部を燃料として売るか、もしくは労賃を得ることによって現金収入の道ができる。会社側でも炭を大量に生産し、販売できれば、収益を増加させることができる。 ○社会面 ・インドネシアは島嶼国家であり、ジャワ島を除いて島全体を連携する基幹送電線と呼べるものが存在しない。従って、孤立系統の地方電化や村落単位の電化が重要な位置を占めており、僻地で創業する大型産業での独立発電は地方電化の一翼を担う重要なものである。バイオマス発電によって、将来は周辺地域への電気の供給も行うことが可能である。 ・本プロジェクトによって、1300人前後の労働雇用が創出され、地元村落への社会貢献度はきわめて大きい。 ・林地の残材を炭にして売って儲かる話が伝わると、我も我もと炭焼きをはじめ、過剰生産に陥って共倒れになるおそれがある。また新しい事業につきものの利権あさりがはびこり、農民が単なる炭焼き労働者にされてしまう懸念がある。 | ||
実現可能性 | ・本プロジェクトは異質な事業の複合体が一つになって、はじめて機能する。全体のシステムは「植林によって工業原料を生産する林業」「伐採された木材からパルプなどの製品を生産する工業」「残廃材を炭化して利用する製炭業」「廃材を利用したバイオマス発電事業」「CO2排出権取引業」「各種の製品を販売する商社」などのサブシステムからなりたっているので、これらのいずれか一つが脱落するだけで全体が成り立たなくなる。 ・インドネジアでは燃料源という点では木炭の経済価値は低いが、1980年以降、金属の精錬や治金、食品や飲料水製造、医薬品の製造などの諸産業において、燃料源以外の用途に木炭やヤシ殻炭、活性炭の需要が急増して来ている。また農業においても土壌改良のためにもみ殻くん炭の使用が増え始めているので、木炭の需要はあると考えられる。 ・インドネシアでは1997年の経済危機依頼、拡大の一途をたどる盗伐の防止と住民対策が重要課題で、CDMに取り組むだけの余裕はない。しかし、排出権取引による経済効果があるということになると、急速に関心は高まるのではないか。政情が安定していないのが事業設立の不安要素となる。 ・カウンターパートとなるムシ社は、在来種フタバガキ植林の導入や住民対策としてのアグロフォレストリーの導入など新規事業の展開には積極的である。 ・炭化事業を円滑にすすめるためにはCO2固定を目的とした炭化事業を行う現地法人の設立が必要になると考えられる。 ・CDM事業として成り立つかどうかはより具体的な数値を入れた解析を行わなければならないが、炭の利用がCO2の固定手段として認められるならば、十分事業として成り立つと考えられる。 ・ムシ社は住民との関係も良好で、炭化事業にも住民の参加が得られるだろう。 ・パルプ工場を持続的に操業するためにはバイオマス発電によってエネルギーの自給体制を維持管理しなければならないが、当面は電力が十分供給されており、その点では持続性が高い。 ・パルプ生産業は経済の動きに大きく左右され、パルプ市場がグローバル化したために、経営上予測不能なことも多い。 | ||
他地域への普及効果 | インドネシアだけでも、ムシ社とほぼ同規模の産業植林を行っている会社が10社近くある。ただし、ムシ社以外は一部に二次林の伐採木を用いており、伐採する木材の全量がアカシアだけというのはムシ社のみである。したがって、将来これらの企業を相手にCDM事業を進めるためには、二次林の伐採によるマイナス効果と外部からの批判を承知していなければならない。 インドネシアでは産業植林の開始が遅く、1990年代に入ってから大規模に造林が始まったために、これから本格的な伐採を始めるという場合が多い。そのためパルプ工場はおろか、製紙工場やチップ工場も少ないのが現状である。したがって、インドネシアで同様の事業を行うためには、植林地を持ったパートナーだけでなく、チップやパルプを生産する工場の設立や運営、さらにはバイオマス発電設備の設置や炭化工場の設立にも関わる必要が生じる。 このプロジェクトをモデルとしてインドネシア国内だけでなくマレーシアなどへ拡大できる可能性がある。 | ||
プロセス3※3 | (調査対象外) | ||
報告書 | 本文(PDFファイル 509KB) | ||
調査評価 | ・ベースラインの設定、GHGs排出の推計手法(ベースライン関係)など、CDMに関する今後のUNFCCCの動き如何によるが、持続可能性のある植林事業の促進という意味で、意義が大きいプロジェクトである。 ・ODAの協調事業として検討していく必要がある。 ・プロジェクト自体(植林、チップなどの素材生産、残余のエネルギー利用)のCDM事業としてのポテンシャルはきわめて高いと評価できる。問題はプロジェクトが支障なく実施できるかどうかであり、地域の政情の安定性が大きなファクターとなると思われる。逆にプロジェクトが安定して持続すれば、雇用創出、経済効果により地域が安定すると思われるので政府のインセンティブが必要である。 ・概要レベルでの調査で、収集された情報も二次データが多い。今後の具体的な調査が望まれる。 ・製炭事業について具体的な数値を入手する調査が今後必要である。特に活性炭については経営的に重要であるので、今後調査する必要がある。 | ||
備考 |
※1. プロセス1: | 具体的なF/S案件を発掘するため、対象国や技術分野を特定せずに、CDM/JIとして広い可能性を考慮した基礎的な調査 |
※2. プロセス2: | 具体的な調査対象国・調査地域、対象技術分野を前提とした実現可能性調査 |
※3. プロセス3: | 実際に炭素クレジット獲得に向け、プロジェクト設計書の作成、バリデーション、炭素クレジットの投資探しなど、F/S終了後に当たるプロセスを行う調査 |