中国黄土高原における緑化の可能性調査

公益財団法人 地球環境センター

CDM/JI事業調査結果データベース

調査名中国黄土高原における緑化の可能性調査
調査年度1999(平成11)、2000(平成12)年度
調査団体(特)緑の地球ネットワーク
調査対象国・地域中国(山西省大同市)
調査段階プロセス2:プロジェクトの実現可能性の調査
調査概要砂漠化が深刻となっている黄土高原の緑化を推進し、CO2の吸収源の拡大を図るため、この周囲の植生、緑化の可能性のある樹種、緑化樹種の生育状況、菌根菌の活用、緑化の社会的側面、地元農民に歓迎される植林の方法などについて調査する。
調査協力機関大同市青年連合会、緑色地球網絡大同事務所
調


プロセス1※1(調査対象外)
※2




プロジェクト概要大同市北部の山と丘陵地500haの造林地に、5年間毎年100haずつ、アブラマツ、モンゴリマツ、ヤナギハグミの植林を行い、その後7年間管理を続けるプロジェクト。アブラマツ、モンゴリマツは1haあたりそれぞれ3300本、ヤナギハグミはマツの間に1haあたり3300本植える。
対象GHGガス二酸化炭素
対象技術分野植林
CDM/JICDM
実施期間2001年から2012年の12年間
ベースライン植林対象地域は、樹木のない荒れ山や黄土丘陵で、草は生えるには生えるが、早春の芽生えの時期から冬枯れまで放牧の羊やヤギに食べられ、繁茂することがない。このような状態は、長い歴史にわたってつづいてきたものであり、人工的に植林プロジェクトが建設されない限り、短期間に変化することはありえない。よって、ベースライン吸収量は0、もしくは極めて微小で無視できるとする。
GHG削減量〇モンゴリマツ、アブラマツによって吸収されるGHG量

・大同県で1985年春に植林されたモンゴリマツとアブラマツを対象にして、毎年の根元直径と樹高を測定し、樹幹解析を行って、隔年の樹幹材積の計算を行った。
・マツの幹の計上は根元よりやや上部までがわずかに膨らんだ円錐形であることが実測されたので、根元面を底面とする円錐として幹の材積を計算した。
・マツの比重は0.52とした。
・樹幹に対する枝の重量は、モンゴリマツでは65%、アブラマツでは80%として計算した。また樹幹に対する根の重量はどちらも70%として計算した。葉については対象から除いた。
・材の乾燥重量に占める炭素の割合は50%とした。

 以上より、モンゴリマツとアブラマツ一本あたりの年間炭素固定量は表1のようになる。
 


 最終的に約20%のマツが枯死して、植林密度が2500本/haになるとすると、プロジェクト期間に吸収される二酸化炭素は956tCO2であると試算された。

〇ヤナギハグミによって吸収されるGHG
 マツの間にヤナギハグミを混植しているが、そのうち枯れていくものなので、今回の調査では、その効果を無視する。

〇その他
 整地・植栽などは、機械などをまったく使わず、人力によって行うので、そこでのGHG排出はない。間伐材を村人が燃料として使って、石炭を代替することになるが、これによる排出削減は考慮しない。苗木を運搬するのに燃料を使うが、これも極めて僅かであるので無視する。

 以上より本プロジェクトによって、吸収される正味のGHGは956tCO2であると試算された。
費用 次の2つのタイプを想定して費用の見積もりを行った。

(タイプ1)財産権が地元の村などに所属するタイプ
 建設するプロジェクトの成果、つまり成長した樹木の財産権が、地元の郷や村に属するもので、日本側は地元の緑化活動を側面から応援する立場の場合。

(タイプ2)財産権がカウンターパートに所属するタイプ
 樹木の財産権を中国のカウンターパートの手元に置くもので、たとえば50年間の土地の使用権を購入し、専門家の管理者を配置し、地元の労働力も雇用者-被雇用者の関係で利用する場合。

 整地費、植栽費、灌漑費、管理費、苗木費、肥料・農薬費、捕植費、管理小屋の建設費、(タイプ2の場合はさらに土地の使用権購入費)などを考慮し見積もった結果、
(タイプ1の場合)29,894千円
(タイプ2の場合)43,003千円
費用/GHG削減量(タイプ1の場合) 29,894千円÷956t=31.3千円/t
(タイプ2の場合) 43,003千円÷956t=45.0千円/t
モニタリング・緑の地球ネットワークと現地のカウンターパートである緑色地球網絡大同事務所のスタッフが標準的なサンプルを選んで、年毎の主幹の伸長量、胸高直径と地上高10cmの直径を測定する。
・間接的な影響などについても、これまでの経験から十分調査できる。
GHG削減以外の影響・造林地として使う土地の大部分は荒地であり,ヒツジ・ヤギの放牧に使われるだけであったが、植林されれば、放牧は排除されることになり、別の土地で放牧されることになる。当然、ほかの場所の草が食べられるが、それと同等以上の草が増林地で茂ることになり,環境面でのマイナスにはならない。

・植林は水土流失と砂漠化の防止に繋がる。

・植林による賃金は、地方の農民にとって貴重な現金収入になる。また賃金をプールして、小学校や給水設備を建設したりした例もあり、インフラの整備や生活水準の向上に繋がる可能性がある。
実現可能性○プロジェクトにとって有利な点

・中国では砂漠化防止と生態環境の修復が重要な政策課題になっており、本プロジェクトは中国の中央と地方の政府の積極的な支持を期待することができる。

・70%近くの現地住民が、100日以上の植林労働に参加しており、緑化に対して熱心で経験もあると言える。上から与えられた任務として緑化を捉えるのでなく、自分たちの農業環境や生活環境を改善するために不可欠のこととして認識している。

・黄土高原は、たいへん貧しい地域であり、他の産業も乏しいため、緑化に必要な労働力を容易かつ安価に確保することができる。苗木などの価格も都市部に比べ、はるかに安い。

・中国は農村部でも、党と政府による組織が行き届いており、外部の人間が直接に住民を組織する必要がない。

・国や地域によっては、植えられた木が燃料をはじめ住民の生活のために伐採されてしまうことがよくあるが、大同はじめ黄土高原では、石炭、天然ガスなどの燃料が豊富なため、そのような心配は少ない。

○プロジェクトにとって不利な点

・気象条件、土壌の条件など自然条件が厳しい。またノウサギやノネズミの食害、病中害による被害もありうる。そのような自然条件に対応できるだけの技術が現地にない。

・歴史も習慣も文化もちがい、しかも日中戦争といったこともあり、日本人と地元の人たちが相互に理解しあい、協力関係を樹立できるようになるには、それなりの時間が必要になる。
他地域への普及効果・大同市は黄土高原の東北端であり、気象条件は黄土高原の中でも厳しい部類に属する。土壌粒子もとくに小さいので、植物の生育にとってはもっとも困難なところと考えて大きな間違いはない。その意味からすれば、大同で試された植林技術はほかでも通用すると考えられる。

・大同のなかでも、気象条件や土壌の条件にさまざまな違いが見られる。県が違えば、ことばも習慣もかなり違うといったことがあり、どこかで成功しても、その経験が他の場所でもそのまま生かせるとは限らない。
プロセス3※3(調査対象外)
報告書
調査評価・本プロジェクトの緑化は21世紀の課題であり、大きな貢献が期待できる。なお、解析不十分なところは今後に期待したい。

・極めて困難な条件下にある中国黄土高原の緑化事業は、植林による炭素固定というCDMの目的に必ずしもなじまないように思う。もっと容易に植林事業化が可能な地域が中国内外にあろう。黄土高原の緑化のねらいは、むしろ地域住民の生活の向上や安定にある。
備考・マツは、初期の生育が遅く、最初の間炭素の固定はほとんど期待できないが、乾燥とやせ土に強いので、植林に使われている。

・参考までにプロジェクト期間を15年としたときを想定すると、マツは植林10年以降指数関数的に成長するので、吸収量は2596トンとなる。

 

※1. プロセス1:
具体的なF/S案件を発掘するため、対象国や技術分野を特定せずに、CDM/JIとして広い可能性を考慮した基礎的な調査
※2. プロセス2:
具体的な調査対象国・調査地域、対象技術分野を前提とした実現可能性調査
※3. プロセス3:
実際に炭素クレジット獲得に向け、プロジェクト設計書の作成、バリデーション、炭素クレジットの投資探しなど、F/S終了後に当たるプロセスを行う調査