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生物多様性シンポジウム実行委員会((財)大阪市環境事業協会、(財)大阪市スポーツ・みどり振興協会、(財)大阪国際交流センター及び(公財)地球環境センター)は、2010年8月7日(土)、大阪国際交流センターにおいて、「生物多様性シンポジウム〜いきものと暮らすことが楽しくなるまち、大阪〜」を開催しました。
当日は週末にもかかわらず、約200名が参加し、各講演者の発表に耳を傾けました。
また、本シンポジウム開催による温室効果ガス(GHG)の排出量に対して、カーボンオフセットを実施しました。
第1部 基調講演
(1)基調講演1「生き物が教えてくれる地球の今」
【宮下 実さん(天王寺動物園名誉園長、近畿大学教授)】
長年動物園に勤務され、いろいろなフィールドでの動物の生態、動物が住んでいる環境を調査した経験等を踏まえ、「生き物が教えてくれる地球の今」と題して、現在直面している生物多様性の損失について、具体例を交えて、幅広い視点から説明頂きました。
野生動物がいくつか絶滅した中で日本の生態系がおかしくなっている事例として、奈良県のコマドリとシカとの関係について御説明頂きました。高さ2mにもなるスズタケというササを野生のシカが全て食べ尽くしたため、大台ヶ原に生息しているコマドリが巣を作れなくなってしまったそうです。本来ニホンジカは高い山には登らず、平地からある程度の低山地帯に生息しているのですが、個体数の増加により高い山に登るようになり、その植生を変えてしまったということだそうです。
また、地球温暖化の問題について、野生のホッキョクグマを例についてわかりやすく説明して頂きました。ロシア、カナダ、アラスカに囲まれた地域の沿岸に住むホッキョククマは、秋の終わりから冬にかけて北極海が凍結するため、その上を行き来しながら、アザラシが氷の隙間から上がってきたときに捕まえて食べているそうです。しかしながら、最近では氷が溶けている期間が徐々に長くなってきているため、ホッキョクグマがアザラシを食べることができる期間が短くなってきており、観光客にえさをねだるホッキョクグマもいるそうです。宮下先生は、30年以内に野生のホッキョクグマは地球上からいなくなるのではないかと危惧されています。
野生生物の絶滅に関して、開発や密猟が大きく寄与しているとこれまで言われてきましたが、ここ10年ほど前からは外来動物が大きな影響を及ぼしていることが明確になってきていると説明されました。また、その問題点として、在来種との交雑、在来種の捕食、競争によって食べ物や住処を奪ってしまうこと、農作物への影響、新たな感染症の持ち込みに加えて、文化財の損傷を指摘されました。実際、奈良の正倉院、東大寺などにはアライグマの傷跡が見られるとのことでした。
最後に、日本近海の海洋生物が33,629種、そのうち日本固有種が1,872種見つかったことに触れ、命の宝庫である日本近海の生物を保存していかなければならないと講演を締めくくりました。
(2)基調講演2「大阪市における生物多様性の取り組み」
【井上 恵さん((財)国際花と緑の博覧会記念協会企画部長)】
大阪市内の緑被率が1974年には3.2%であったのが、2006年には6.9%と向上していることについて、グラフを用いて説明されました(なお、大阪市の将来目標は15%)。樹木面積が増えると生物が多くなる傾向にあるとのことです。
また、大阪市内の緑化の具体的な取組(阿波座南公園、大阪市役所の屋上緑化、なんばパークス、学校ビオトープ、NEXT21等)についてわかりやすく御紹介して頂きました。
さらに、大阪のまちづくりの考え方として、「風の道・生き物の道」の概念を示しました。これは、風、水、緑、人、生き物など自然や築き上げた財産を活用して、循環型のまちづくりをすることで、都市の生物多様性の確保やヒートアイランド対策に寄与するというものであり、この考え方に基づき、行政、市民、企業等が協働して、50年、100年かけても一つ一つ築き上げていかなければならないと説明されました。
第2部 パネルディスカッション
(1)自然環境保全の取り組み 生物多様性〜地球のいのち、つないでいこう〜
【上村 邦雄さん 環境省近畿地方環境事務所野生生物課長】
生物多様性とは何かについて具体的な事例(生態系の多様性として大台ヶ原、種の多様性としてアユモドキなど)を用いて紹介がありました。そして、日本の生物多様性について、3つの危機と地球温暖化の危機が迫っていることを具体的な数値や事例を示しつつ、御説明頂きました。
また、近畿地方環境事務所が行っている業務内容(大台ヶ原の自然再生事業、希少野生動植物の保護、野生鳥獣の保護管理、特定外来生物の規制など)について詳しく説明して頂きました。
さらには、今年10月に愛知県名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の見通しについても言及されました。
最後に、私たちが取り組むべきこととして、野外や動物園・植物園等に出かけて、生物に触れること、自然を汚さないようにすること、ペットは最後まで飼うこと、家庭や学校で自然の恵みや大切さについて語り合うことなどを指摘されました。
(2)イラク南部湿原の環境危機と生物多様性
【吉井 幸夫さん 国連環境計画国際環境技術センター(UNEP/IETC)上級審議官】
UNEP/IETCがイラク戦争終了後のイラク復興計画の一つとして取り組んできた「イラク南部湿原環境管理プロジェクト」について紹介して頂きました。
イラク南部湿原は、独自の動物相をもっているほか、渡り鳥の重要な飛来地になっており、湿原の存在が周辺都市バスラの暑さの緩和にもつながっているそうです。さらには、ペルシャ湾の海洋生態系の第一次生産にも重要な役割を果たしており、栄養源が湿原からペルシャ湾のプランクトンに供給されるそうです。
UNEP/IETCでは、プロジェクトを通じて、@地方政府や関係団体の環境政策立案の支援、A湿原の水質等のデータ収集・情報ネットワークシステムの構築、Bイラク人を対象とした研修等を行うとともに、日本の技術を適用した排水衛生設備(植物のヨシを利用した浄化システム)の供与を実施したそうです。
(3)生物多様性のある暮らし
【夏原 由博さん 名古屋大学大学院環境学研究科教授】
シンガポール市が中心となって提唱している「都市の生物多様性指標」(@自然生態系がどれくらい都市に残っているのか、A自然が人々に与えてくれる生態系サービス、B生物多様性に関するガバナンスと管理(予算、施設など))について紹介した上で、今後大阪は、こうした指標を用いて総合的に生物多様性に関する目標を立てていく必要があると指摘されました。加えて、先生からは「エコロジカルフットプリント」の概念について紹介がありました。大阪市の場合、全人口を養うために、炭素固定を含め大阪市の面積の100倍以上の土地が必要であり、そのための土地を主に海外に求めているが、その土地では生態系に負担をかけることで砂漠化などが起きているかもしれないので、都市は地域的なものに加えて、グローバルな視点をもって物質の供給を考えていかないといけないと指摘がありました。
また、都市の自然の中で非常に貴重なエコトーンとしての水辺の重要性について言及されるとともに、今後の少子高齢化社会を見据え、5,000万人社会において生態系の機能を最大限利用できるような土地利用を長期的に検討すべきであると指摘されました。
(4)積水ハウスの事例紹介
〜「新・里山」の紹介と企業による生物多様性保全の取組み〜
【佐々木 正顕さん 積水ハウス(株)環境推進部部長】
積水ハウス(株)の生物多様性保全の取組として、地域の自生種・在来種を中心に、地域の生き物に役立つ木を植えていこうという活動(「5本の樹」計画)について説明頂きました。生き物が訪れる庭を造れば、捕食などによって薬剤散布の手間が比較的抑えられるなど、人にとっても生き物にとってもメリットがあるほか、庭に小鳥や蝶が来ることで人々の心を和ませる効果や子供の情操教育にも繋がることを指摘されました。また、同社が「5本の樹」を植えた全国6ヶ所の分譲地を調査したところ、生き物に配慮して樹を植えたところでは、そうでないところに比べて最大約10倍の昆虫や、約8倍の鳥類の生息が確認されたとのことでした。
さらに、同社の本社がある新梅田シティで取り組む「新・里山」での取組について、地元のボランティア活動などを含め御紹介して頂きました。
(5)大阪府に於ける水辺の生き物生息調査
【林 美正さん シニア自然大学校水辺環境調査会】
シニア自然大学校では、多様な生き物が生息する水辺環境の保全のためのデータベースをつくること、子どもたちと川に入って、水辺環境を体験し、命のいとおしさを学ぶことなどを目的として、実施している大阪府水辺の生き物調査の概要を御紹介頂きました。調査によると、例えばメダカについては、生息場所数、群の個体数が減少傾向にある一方で、特定外来種に指定されているタガヤシについては生息分布域が広がっていることがわかったそうです。
講演の最後に、シニア自然大学での活動等を踏まえ、生物多様性農業の必要性や田んぼや農水路などの水辺環境を生き物の繁殖場所として復元すること、生きた生き物の原則的輸入禁止と不要外来生物の回収システムの構築などについてご提案がありました。
(6)総合討議
【コーディネーター:金井文宏 (株)都市文化研究所代表取締役】
上記5つのご発表を踏まえ、パネルディスカッションでは以下のような項目について活発な議論が行われました。
(写真:パネルディスカッションの模様) | |